15.囁き声
リヴェットはクリスタル・シアターのエントランスホールに駆け込むと、とうとう息を切らしてしまい、その場でしゃがみ込んでしまいました。二人は少しだけ、ここで休憩する事にしました。
クリスタル・シアターの内部は、記憶の投影によって往年の鮮やかな照明が蘇っていましたが、それは劣化した映像のように時々掠れていました。クラウディアの放った光の球体は、クリスタル・シアターの内部まで入り込み、辺りを照らしていました。
周囲からゴーストが迫ってくる気配はまだ見られませんでした。アトリアはタクトをしっかり構えて、心配そうに周囲の様子を伺っていました。
大劇場は16本の大きな柱で支えられ、その柱を固定する巨大なメインケーブルが、長いスロープを描くように周囲へ伸びていました。
2本のエスカレーターが、空中に固定された大劇場に向かって、螺旋状に伸びて繋がっているのが見えました。
エスカレーターは動力を失っている為、歩いて登る必要がありました。
暫く休んで落ち着いたリヴェット達は、再び歩み出し、螺旋エスカレーターを少しずつ昇り始めました。
2本の螺旋エスカレーターに囲まれる形で、中央には巨大なシャンデリアの記憶が投影され、内部の広い空間全体を照らしていました。
きっとこの立派なシャンデリアを見せる為に、このような構造にしたのだとリヴェットは思いました。
途中まで登り切った時、突然後方からソーラス語の囁き声がしました。
「アトリア....帰って来てくれたのね!」
フランベル?...リヴェットは思わず振り返ってしまう所でしたが、アトリアが叫んで制止しました。
「リヴェット!駄目です!」
アトリアはリヴェットの腕に強くしがみつき、真剣な顔でリヴェットに言いました。
「後ろには、誰もいません。その声は”ゴースト”です!」
その時、シャンデリアの前を黒い影が横切るのが見えました。リヴェットは体中に寒気がしました。
とうとう、彼らはリヴェットの存在を識別し、迫ってきたのです。
リヴェットは必死に駆け出しました。大劇場までは、まだ半分以上の距離があります。
しかし息を切らして立ち止る度に、リヴェットの耳元で囁き声がしました。
「ねえ....アトリアを、返してよ」
リヴェットは必死に耳を塞ぎ、そして前だけを見つめました。
アトリアは必死にタクト振り回して、リヴェットに近づいてくるゴーストを追い払おうとしました。
「アトリア.....何故その子が好きなの?私を忘れてしまったの?」
「リヴェット、聞いては駄目です!」
アトリアは涙目になりながらも、リヴェットと守ろうとしました。
「大丈夫、大丈夫....だから、絶対に離れないでね.......」
リヴェットはアトリアの小さな体を手で優しく包みました。
「リヴェット.....」
アトリアはリヴェットにしがみつきました。リヴェットは勇気を振り絞り、再び全速力で走り出しました。
「アトリア....その娘は限りある命なのよ。いつか、必ず別れが訪れる。
一つだけ、その娘とずっと一緒にいられる方法がある。その娘だけじゃない。私ともまた一緒にいられるわ。
そう、あなたもここに来るの。その娘を一緒に連れて......」
「リヴェット!フランベル様は、絶対にあんな酷い事は言いません!絶対に....!」
アトリアは泣いていました。自分の敬愛するフランベルが侮辱された悔しさ、そして自らの非力さに....。
―今度は別の呼びかける声が聞こえました。それはソーラスの言葉ではなく、ウェレンスヴァニアの言葉で、懐かしいレティシア達の声でした。
「リヴェット....どうして私たちを置いていきましたの? 酷いですわ.....」
「リヴェット様。シュレット様も待っております。一緒に帰りましょう」
どんなに耳を塞いでも、その声は心に囁き掛けて来ました。黒い影が、リヴェット達の周りを飛び回っていました。
アトリアもまた、リヴェットの腕にしがみつきながら、タクトを振りかざしました。タクトから放たれる緑色の光の粉を帯びながら、リヴェットは無我夢中で走り続けました。
―ようやく螺旋エスカレーターを昇り切り、大劇場の内部へと辿り着きました。
大劇場は亡霊が初めて人々に襲い掛かった日から時が止まったかように、荒れた状態でした。
記憶の投影によって映し出された照明が、ホール全体や、舞台の上を薄らと照らしていました。
大劇場の中では既に、黒い影.....ゴースト達がリヴェット達を取り囲んで待ち構えていました。
彼らはリヴェットやアトリアの知っている人物の形に変え、呼び掛け続けてきました。
既に二人は、心身共に限界でした。
リヴェットはとうとう立つことも出来なくなり、その場にしゃがみ込みました。
「.....ごめんね....アトリアちゃん」
「....リヴェット」
二人は全ての終わりを悟り、涙を流しながら強く抱き合いました。
リヴェットの肩に誰かが手を置きました。
リヴェットは目を瞑り、悲鳴を上げて最期を覚悟した時、すぐ傍でクラウディアの声が響きました。
「リヴェット.....落ち着きなさい。ゴーストはあなたの身体に触れる事は出来ないですよ」
恐る恐る前を見上げると、そこにはクラウディアの姿がありました。
「クラウディア.....クラウディア!」
リヴェットはクラウディアを思い切り抱きしめました。リヴェット達を取り囲んでいたゴースト達は、隅の方へと逃げて行きました。
「遅くなってしまってごめんなさい.....間に合って良かった.....」
「私.....結局、自分一人では何も出来ない.....いつもレティに、おじい様に、アトリアちゃんに......クラウディアに助けられていてばかり.........」
リヴェットはクラウディアが来てくれた安心感、そして自分の無力さを嘆きました。
クラウディアはリヴェットを優しく抱きしめて言いました。
「それでいいのです.....リヴェット。お互いに支え合うから、人は強くなれるんです。私も一人では、ここへ戻って来る勇気が無かったんです.....あなたがいたから、こうして再び過去と向き合う事が出来たんです。リヴェット。あなたの冒険が....あなたの勇気が、私達の運命を導びき、ここまで辿り着いたんです.....」
クラウディアはリヴェットの両肩にそっと手を置いて言いました。
「リヴェット.....さあ、涙を拭いて。あなたにしか出来ない大事な使命が、まだ残されています。
シスタ・フィオーレンを持って、あの舞台に立つんです。ゴーストは私に任せて.....あなたは、演奏に集中してください」
「.....うん!」
「アトリア。もしゴーストが壇上に上がってきたら、リヴェットをしっかり守ってあげてくださいね」
「はい!」
アトリアもまた勇気を取り戻し、タクトをしっかりと構えました。
リヴェットはずっと大事に抱えていたケースからフィオールを取り出すと、アトリアと一緒に大急ぎで檀上を目指して駆け出しました。
―リヴェット達の後ろの方で囁き声がしました。
「(クラウディア....久しぶり....)」
クラウディアは迫りつつあるフランベルのゴーストに向かって、無言のままトランペットを吹きました。
ゴーストが呻き声を上げながら、消滅していきました。
16. レクイエム
客席間の通路からクラウディアが大声で叫びました。
「リヴェット!準備は良いですか?」
「うん!いいよ!」
リヴェットも大きな声で答えました。
「でははじめましょう.....演目はレクイエム。あなた達へのね.....」
クラウディアはヤンセンのホログラム投影機を取り出し、舞台中央のオーケストラピットに向かって投げました。暫くすると、ヤンセン達の記録映像が映し出されました。
ヤンセンが指揮棒を大きく掲げました。 不気味なほどの沈黙の後、ヤンセンが2回指揮棒を振ると、ピアノとオーボエの優しい旋律が聞こえてきました。"Sista Fiolen"の演奏が始まりました。4小節目に入り、いよいよリヴェットのシスタ・フィオーレンが演奏が加わりました。
とても力強く、勇ましい旋律が、クリスタル・シアターの大劇場に響き渡りました。 大太鼓のドンドンと響く音、ホルンの分厚く力強い旋律。 リヴェットの奏でるフィオールの情熱的な掛け合いが交わりました。それはまるで、時に隔てられていた様々な想いが、1つに繋がっていくような感覚でした。リヴェットはソーラスと、そしてNEBOでの冒険を通して感じてきた想いの全てを込めて、演奏に心を委ねました。
ゴーストが唸り声をあげながら、一斉にリヴェットに襲い掛かろうとしていました。
直ぐにクラウディアが反応し、リヴェットの前に立ち塞がりました。
「ここはS席ですよ。チケットを持っていない方は帰りなさい」
クラウディアは目を瞑り、トランペットで音にならない旋律を奏でました。すると、今まで誰もいなかった観客席に、満員の観衆を記憶が呼び出されました。ゴーストは怯み、天井へと浮遊して逃げていきます。
ゴースト達が両脇の壇上からリヴェットに迫ろうとしていました。
アトリアはタクトを振り回し、ゴーストを退けようとしました。
そこに、スピカが現れました。スピカもまた、黄色い光の粉を散らすタクトを手にしていました。
「アトリア。ただ振り回すだけでは駄目です。私の動きに倣って下さい」
「はい」
スピカとアトリアは互いに交差するようにリヴェットの周りを飛び回りました。
タクトの放つ光の粉が交差し、舞台の上で美しい螺旋模様を描きました。
光の粉が広がると、ゴーストは壇上から逃げていきました。
リヴェットはクラウディア達を信頼し、決して臆することなく、演奏に集中し続けました。
一旦は引いたゴースト達は呻き声を上げると、再びリヴェットに襲い掛かろうとしてきました。
クラウディアは"Sista Fiolen"の演奏に合わせて、トランペットのアクセントを奏でてこれを撃退しました。
また、別の方向から迫るゴーストが、今度は背後からクラウディアに襲い掛かろうとしましたが、スピカが行く手を阻み、タクトを華麗に振り回して追い払いました。
「懐かしいですね....昔は何度もこうやって、共に戦ってきましたね、スピカ」
「ええ、クラウディア....それも随分、昔の事になるのですね」
「スピカ。これがきっと私達にとって....最後の戦いになるでしょう。ここが正念場ですよ」
「はい.....」
二人は真剣な表情でゴーストと戦いながらも、リコレクターとして最後の役目となる今この時を、心に刻んでいました。
やがて、4分に渡る演奏....そして攻防戦が、クライマックスを迎えました。
楽団の叩く大太鼓が劇場に残響となってホール全体に響きました。
すると、ゴースト達は白く輝く光の粒子となって、次々と消滅していきました。
このレクイエムによって、”彼ら自身”だけが第4階層へと融合していくのです。
全ての演奏が終わると、観客席から満場の拍手が響き渡りました。
リヴェットがゆっくり瞼を開いた時にはゴーストの姿は無く、オレンジ色の穏やかな光を放つ粒子がふわふわと漂いながら、やがて消えていきました。
クラウディアが舞台に駆け上がり、リヴェットの隣にやってきました。
アトリアもスピカに誘われて、リヴェット達を挟むように横に並んで、観客席の方を向きました。
クラウディアが記憶として投影した筈の大観衆は総立ちで、大きな拍手が鳴り止みません。
リヴェット達は互いに手を繋いで、深く一礼をしました。
拍手はより一層、大きく響きました。
リヴェットは嬉しさの反面、とても恥ずかしくなってきました。
「ねえクラウディア.....これもクラウディアが見せている記憶の世界なの?」
「いいえ....私が呼び出した記憶は、もうとっくに消滅している筈ですよ。これは、シスタ・フィオーレンが見せている記憶です。ほら、あれをごらんなさい」
リヴェットはクラウディアの視線を追っていくと、そこにはなんと、あのオリヴィアの姿がありました。
それだけではありません。ユーゴとヤンセン、歴代のシスタ・フィオーレンの所持者達、そしてフランベルも、ソーラス人だった頃のトラヴィスの姿もありました。
リヴェットは万感の思いが込み上げてきて、涙が溢れてきました。
クラウディアが茶化すように言いました。
「リヴェット....泣いては駄目よ。彼らにちゃんと笑顔で応えなさい」
「うん」
リヴェットは涙を拭い、彼らに笑顔で手を振りました。
彼らも手を振って応えると、やがて....フィオールの記憶が見せた彼らの姿がフッと消えていきました。
「....さようなら、みんな.....ありがとう」
そして....クリスタル・シアターは長きに渡る歳月を経て、誰も居なくなった廃墟の大劇場へと戻っていきました。
17. 空へ
クリスタル・シアターの屋上展望台から表に出ると、冷たい風が吹き込んできました。闇に包まれていた空は次第に明るくなり、東の空が朝焼けに輝いていました。あの不気味な喧騒や黒い影、囁き声は、もうどこからも聞こえません。
ゴーストが消滅した後に残ったオレンジ色の光の粒子は、ソルナ・ティエナの街中に漂いながら、夜空一面に星々が輝く空へと昇っていきます。
「ソルナ・ティエナの長い夜は、今.....ようやく終わりを告げました。リヴェット。あなたのおかげですよ」
「ううん...みんなが居てくれたからだよ。クラウディア、スピカさん.....それに、アトリアちゃん.....本当にありがとう」
アトリアは嬉しそうに微笑みました。
「だけど......」
リヴェットは哀しそうに俯きました。
「そうね.....本当に救いたかった人達は、ずっと昔に去って行ってしまった。ソーラスはもう二度と蘇る事はありません。
でもリヴェット。あなたの勇気が、私達の....多くのソーラス人達の想いを、あの素敵なコンサートに導き、届ける事が出来たんです。ほらリヴェット。この空を見て御覧なさい」
クラウディアは空高く昇り、星空へと消えていく光の粒子を指差して言いました。
「彼らはNEBOの彼方へと導かれていきます。ようやく本来あるべき場所へ.....安息の地へと旅立つんです。
世界はきっとまた、再生していきます。私達は次の未来に、希望を託しましょう」
「うん....」
クラウディアは突然、何かが閃いたのか、リヴェットの手を取って嬉しそうに言いました。
「ねえリヴェット! 良い事を思いつきました! もうこの空にゴーストはいません。今は私達だけのもの。一緒に、飛んでみませんか?」
「....え?」
「ここは第3階層。私達ソーラス人の長年の夢を実現させられる空間....本来はそのために作られた仮想次元なんです」
クラウディアはスピカと手のひらを合わせると、クラウディアの背後に再び、赤い輝きを放つ光の翼が現れました。
「アトリア....さあ、あなたも」
スピカが言いました。
アトリアも同じようにリヴェットと手を合わせると、リヴェットの白い翼の背後にも、その小さな翼を補うように、青白い輝きを放つ光の翼が現れました。
「クラウディア....これは?」
「私達ソーラス人の未熟な翼に、高度な飛行能力を与える夢の翼。さあリヴェット、やってみて」
「えと.....」
リヴェットは白い翼を羽ばたかせてみましたが、飛ぶことはできませんでした。リヴェットは落ち込んでしまいました。
「.....やっぱり、私には駄目なのかな」
「リヴェット.....心を開いて。空を飛びたいって、強く願うの。最初から出来ないって思っていては駄目よ」
「リヴェット、頑張って! また一緒に空を飛びましょう!」
アトリアが真剣な顔でリヴェットを応援しました。
「アトリアちゃん....」
リヴェットはゆっくり深呼吸しました。アトリアと一緒に飛んだ美しい空を、もう一度見たいという願いを込めて、ゆっくりと翼を羽ばたかせてみました。すると、体が少しずつ宙に浮き、地面からみるみる内に離れていきました。
「え? 凄い....」
「その調子ですよリヴェット。さあ、もっと高く昇ってみて下さい」
「リヴェット、頑張って下さい!」
小さな手をぎゅっとしながら傍で応援してくれるアトリアの可愛らしい声に励まされ、リヴェットはさらに翼を羽ばたかせ、やがて周りの高層ビルよりも高い場所まで昇っていきました。 朝焼けの空の下で鮮やかな色彩に染まる、美しいソルナ・ティエナの街並が一望できました。
「.....綺麗、とても綺麗よ」
アトリアがリヴェットに手を差し出して言いました。
「リヴェット.....また、一緒に飛びましょう」
「うん」
リヴェットとアトリアは手を繋ぎました。
「ちょっとあなた達」
気が付くと、クラウディアとスピカがリヴェット達の目の前まで羽ばたきながら昇ってきました。
クラウディアは少し不機嫌そうに言いました。
「私達を置いて行く気ですか?」
「え.....ち、ちがうよ...」
「むー」
アトリアはリヴェットは自分のものだぞと言わんばかりに、ふてくされた顔をしました。
「アトリア、ごめんなさいね。今日だけは許してね」
クラウディアは優しく微笑むと、リヴェットに手を差し出しました。
リヴェットはもう片方の手で、クラウディアの手を掴みました。
「コホン....あの、クラウディア.....」
それを見ていたスピカが、わざとらしく咳払いをしました。
「あらスピカ.....あなたの事を決して忘れたりはしませんよ」
クラウディアはもう片方の手を差し出すと、スピカはその手を掴みました。スピカは嬉しそうに微笑みました。
4人が手を繋いで並び、互いの顔を見合わせると、ソルナ・ティエナの空へ、一斉に羽ばたいていきました。
赤く輝いていた東の空から、眩い光が差し込んできました。ソルナ・ティエナに朝日が昇ったのです。暗闇と影に染まっていた不気味な街の面影は無く、ソルナ・ティエナがNEBO中心であった頃美しい面影を取り戻しつつありました。
リヴェット達は朝日に輝くソルナ・ティエナの美しい空を、一緒に駆け抜けました。
リヴェット達の光の翼、アトリア達が持つタクトが放つ4色の光の粉が、まるで虹を描くようにソルナ・ティエナに降り注ぎました
北の空を見上げると、あの青い星.....オールドホームが、リヴェット達を優しく見守っていました。
リヴェット達は空の旅を存分に楽しみながら、陽の光を受けて輝くゲートウェイ・アーチを目指して降下していきました。
18. 心の翼
ガーシュタイン城では、ハンスが、そしてロボット達が主達の帰りを盛大に祝福してくれました。
鮮やかな装飾で彩られた食堂には、美味しそうなごちそうがテーブル一杯に並べられ、音楽隊の賑やかで楽しい演奏が出迎えてくれました。
アトリアは新しく手に入れたタクトがすっかり気に入ってしまった様子で、パーティの最中も光の粉を鮮やかに散らして遊んでいました。いつもはエプロン姿でロボット達に指示を出す立場のスピカも、この日はリヴェット達と一緒にパーティを楽しみました。
ハンスはいつものように室内をパタパタと飛び回り、時折リヴェット達に飲み物を運んで来てくれました。
クラウディアは相変わらず変な質問や話題を振ってリヴェットを困らせたり、赤面させてきますが、リコレクターとしての強さと頼もしさの反面、そんな無邪気で子供らしいクラウディアの事がリヴェットはとても好きでした。二人はNEBOでの出来事を通じて、今はお互いに心から信頼し合っていました。
リヴェット達は疲れを忘れて、その日は思う存分、パーティを楽しみました。
パーティが終わると、クラウディアはリヴェットに、今夜は一緒に寝ようと誘ってきました。
「絶っ対に駄目です!」
勿論アトリアはそう言って、頑なに阻止しようとしましたが、スピカがアトリアをうまく宥めて、ようやくリヴェットとクラウディアは二人きりになりました。
スピカは拗ねているアトリアの髪の毛を、丁寧に撫でてとかしながら言いました。
「アトリア....リヴェット様の事が本当に好きなのですね。大丈夫です。クラウディアはあなたからリヴェットを取ったりはしませんよ.....」
「うー......」
アトリアは相変わらず不貞腐れていました。
「アトリア。今日は私達、妖精同士で沢山お話をしましょうね」
スピカが優しく言いました。
パートナーのクラウディアが別の子と親しくしているのに、何故スピカがいつも冷静でいられるのか、アトリアは不思議に思えていました。
「あの、スピカさん.....訊いても宜しいですか?」
「何でしょう?」
「スピカさんは.....その、クラウディアさんが他の子と親しくしていても、心配になったり、寂しくはなりませんか?」
スピカは瞼を閉じて、過去の記憶を遡りながら言いました。
「ええ....私が初めてクラウディアのパートナーとなった頃はね。それでよく、喧嘩した事もありましたよ。
でもねアトリア、それは私がクラウディアとまだ、心を一つにする事が出来ていなかったから....そう、信頼が足りなかったからなのです」
アトリアは、記憶の世界へ行く時にクラウディアが同じ事を言ったのを思い出しました。
「アトリア。あなたはリヴェット様の事が好きですか?」
「はい....とても.....」
アトリアは顔を赤くして答えました。
「心を1つにするには、パートナーの事を好きになるだけでは駄目なんです。
心身を重ね合わせ、真に”共感”しなくてはなりません。
でもアトリア。あなたはこれまでの冒険で、リヴェット様と共に多く時間を過ごし、そして苦難を乗り越えて来た筈です。
きっとそれが出来るようになるのも、時間の問題でしょう」
スピカはアトリアを優しく撫でて言いました。
リヴェットとクラウディアは、夜遅くまで他愛のないお喋りで盛り上がりながら、お互いの翼や髪を綺麗に手入れし合っていました。
クラウディアはわざとレティシアやアトリアの真似をして、リヴェットの羽に顔を埋める悪戯を何度もして来るので、リヴェットもお返しをしようとしました。
「捕まえたよ」
リヴェットは勝ち誇ったようにクラウディアの黒い翼を抱きかかえました。すると、クラウディアは翼を小刻みに羽ばたかせてリヴェットの頬をくすぐりました。
「こちょこちょ....」
「きゃぅ!」
最初はびっくりしたリヴェットでしたが、間近で見る黒い翼の美しさ、そして柔らかさに.....とても心地が良くなり、気がつくとゆっくり顔を埋めていました。
「.....やわらかい」
リヴェットは、こうして自分以外のソーラス人の羽に触れたのが初めてだった事に気が付きました。
「リヴェット、どうかしました?」
「私....自分以外の羽にこうして触れたのは初めて。レティやアトリアがどうして、同じ事をするのか、とても不思議だった......」
クラウディアは優しく微笑んで言いました。
「ねえリヴェット。ソーラス人は本当に信頼している人としか、翼に触れたり、触れらせる事はしないんですよ。
私の場合は尚更、この黒い不気味な色が.....多くの人を遠ざけてしまうんです」
「え....そんなことは無いよ.....クラウディアの翼は、とても綺麗.....」
「リヴェット....嬉しい。そう言ってくれたのは、あなたとスピカだけよ」
クラウディアはとても嬉しそうに微笑みました。
「私、この黒い翼がずっと憎かったんです。ソーラスは翼の色合によって、暗黙的に立場が決定付けられる社会でした。その上、リコレクターの力さえ持っていた私は、家族や世間から恐れられ、隔絶され、オールドホームの地を踏む事も許されなかった。この忌まわしい翼を、むしり取ってしまおうと思った事もあったんですよ」
「そんな.......」
リヴェットはとても悲しくなりました。
「本当の事を言うとね、私はソーラスを心底憎んでいたんです。滅んでしまうなら、それでもいいとさえ思っていました。
でもね....私のこの翼は、ルールに縛られず、誰もが成し得ない事が出来る可能性を秘めた美しい翼だと。そう教えてくれたのが、スピカだったんです」
クラウディアは瞼を閉じて、過去の記憶を遡りながら言いました。
「リヴェット。私達の翼が何の為に存在するのか。それは確かに飛ぶ為に存在したんです。でもそれは、空を飛ぶ為では無く、私達の心を成長させ、新たな可能性と精神的な高みへと飛翔する為にある。私はそう思うんです」
それはクラウディアなりの答えでしたが、リヴェットは大いに共感しました。
「クラウディア.....私、ようやく自分の翼の意味が、分かった気がする。ごめんね.....とても辛い思いをしていたのに、私ってば....」
リヴェットはすすり泣きながら謝りました。
クラウディアはリヴェットを優しく抱きしめて宥めました。
「あらあらリヴェットったら......本当に泣き虫なんですから。さあ、涙を拭いて。そろそろ寝ましょう.....」
二人は共にベッドに入り、一緒に並んで横になりました。暗闇が苦手なリヴェットでしたが、間近でクラウディアの鼓動と暖かさを感じ、心から安心感を抱きました。
「ねえクラウディア。クラウディアは.....ずっとここに居て、寂しくはないの?」
「ええ.....時々よ。でもスピカがいつもそばに居てくれますし、それにもう慣れっこ。
ねえリヴェット。ソーラスでは恋愛の概念も、男女という概念は完全に消失していました。
私ね、寂しいときはいつもあの子と抱き合っていたんですよ」
リヴェットはそれを聞いて赤面してしまいました。
「ふふ.....」
クラウディアは悪戯っぽく笑いました。
「リヴェット。あなたの事も大好きよ........本当はずっと、ここにいて欲しいんです」
「クラウディア.....」
「でもリヴェット。あなたはまだ沢山、それにもっと高く飛び続けられます。アトリアちゃんと一緒に、多くの冒険を通して、成長していかなくてはいけません。だから、あなたを捕まえたりはしませんよ.....今はまだ、ね」
「ねえクラウディア。クラウディア達も.....一緒にオールドホームへ行こう? 」
クラウディアは驚いた表情で、目を丸くしましたが.....やがて優しく微笑んで言いました。
「いいえ.....私達はここで、永遠に彼らを見守っていかなければなりません。
それがNEBOで最期に残った私達に課せられた贖罪と使命なんです。
リヴェット.....星を渡る旅人、リヴェット・フローネル。あなたは、私たちの分も、沢山冒険をして、その翼を大きく広げて飛び続けて下さい。それが私の願い........」
二人は互いの手をしっかりと掴みました。
19. 家路
リヴェット達は、初めてNEBOへ来た場所....遥か雲の上まで伸びる2つの塔の最上階に置かれた、クラックスの前にやってきました。
スピカは手馴れた手つきでクラックスのECRを操作し、僅か数分でクラックスのワームホールを開きました。
中央の円形のゲートの内側が、あの時と同じように、青白く輝いていました。
そう.....リヴェット達の冒険は終わりを告げ、遂に家路につく時が来たのです。
「リヴェット。とうとう行ってしまうのですね......」
クラウディアの赤い瞳が、悲しそうにリヴェットを見つめていました。
「うん。みんながきっと、待っているから.......」
これまでの道程で残してきてしまったシュレット、レティシア、ステラの事が内心ずっと心配でした。
しかし一方で、クラウディア達との別れがとても辛く、今でも後ろめたさが心に残りました。
クラウディアは手に持っていた包みを開き、一冊の本をリヴェットに差し出しました。
「リヴェット。これをあなたに差し上げます」
リヴェットはそれを受け取りました。本を開いてみると、リヴェットは思わず驚愕して声が出てしまいました。
「え!?これって....もしかして.....」
「あなたがその翼で、新しい可能性へ飛翔していく為に、ほんの少し手助けになるでしょう」
「クラウディア....ありがとう」
「またいつでも......NEBOに遊びに来て下さいね。ここは、あなたのもう一つの故郷でもあるんです。
また一緒に、旋律を奏でましょう。美味しいごちそうも、沢山用意していますからね」
「うん.....」
二人は強く抱き合いました。互いの翼が震えていました。
二人とも涙を流し、別れを惜しみました。
「クラウディア....さようなら.....」
「リヴェット......元気でね......」
その隣では、スピカがアトリアを抱きしめていました。
アトリアもまたスピカに顔を埋めて、別れを惜しみました。
「アトリア.....しっかりね。リヴェット様と心を一つにするのですよ」
「はい.....スピカさん」
アトリアはもう一度振り返り、スピカに深くお辞儀をすると、リヴェットの方を向いて目を瞑り、スッとリヴェットの中へと消えていきました。
手にはシスタ・フィオーレンのケースをしっかりと握り、”星を渡る旅人”の証である黄金の羅針盤を首から下げ、 美しい白い翼をなびかせながら、リヴェットはゲートへと続く階段をゆっくりと登っていきました。
リヴェットはもう一度振り返り、クラウディア達を見つめました。
ハンスが初めてNEBOに来た時と変わらず、パタパタと飛び回りながらこちらを見ていました。スピカは優しく微笑んで、手を振りました。
クラウディアはトランペットで、Sunset Flowersを演奏していました。
それは、クラウディアなりの別れの言葉でした。
リヴェットは美しい旋律に心を委ね、そしてもう一度ゲートの方に向き直り.....青白く輝くゲートの中へと飛び込みました。
リヴェットは閃光となって天高く昇っていきました。
真っ白に輝く視界を見下ろすと、あの青い星......NEBOが次第に小さくなっていくのが分かりました。
「さようなら、NEBO。さようなら、スピカさん。さようなら........クラウディア........」
リヴェット達は流星となって、オールドホームへと帰っていきました。
20.再会
リヴェット達がNEBOへと旅立って行った翌日の朝、レティシア達はようやくシューガルデン、ガクルックス観測所のクラックスの前に辿り着きました。
上半身ユニットだけで黒い石碑にもたれ掛っているR.クラーク.....シュレットを見つけたレティシアは、すぐに駆け寄って来て、悲しい表情で呼びかけようとしましたが、軽いいびき声を聞くと直ぐにジトッとした目つきになり、大声で怒鳴りました。
「ちょっとじじい! 何を呑気に寝ているんですの?」
「わあ.....なんだ、レティか」
レティシアはシュレットに詰め寄って言いました。
「ねえ....リヴェットは何処? まさか一人にしたって言う気では無いですわね? もしそんな事を言ったら.....首だけにしますわよ」
「いやあ、それだけは勘弁して欲しい......全く、少しは同情して欲しいものだ」
「私たちを散々騙したのが悪いのですわ」
レティシアはぷいっと不貞腐れて言いました。
しかしシュレットには、孫娘のつれない態度は、どんな窮地でも悲観に暮れない彼女なりの気遣いだと知っていたので、とても嬉しく思っていました。後からエンパス・リンカーの姿をしたライラもやってきました。
「おや、ライラ....君もとうとう、正体が知られてしまったようだね」
「それはお互い様ですよ、シュレット様.....大丈夫でしょうか?」
「ご覧の有様だ。どこかにロボットの予備ユニットは無かったかね?」
「1Fの倉庫を調べてみましょう」
突然、ECRが輝きだし、ホログラムスクリーンが投影されました。
「あら?何かしら?」
クラックスが突然、轟音を立てて眩く輝き出しました。
クラックスの中央にある円形のゲートの内側が青白く輝きだすと、そこから白い翼の生えた少女.....リヴェットが現れました。
レティシアは驚きと喜びで、思わず大声で叫びました。
「リヴェット!!リヴェットー!!」
その声に気がついたリヴェットは、暫く立ちすくみ、辺りを見渡してその声の主を探しました。
「レティ.....レティ!」
レティシアの姿を見つけると、急いで駆け寄り、二人は強く抱擁し合いました。そして....リヴェットは思いきり泣きました。
レティシアもリヴェットを優しく宥めながら言いました。
「リヴェット.....ああ、私のリヴェット。おかえりなさい。辛かったでしょう......もう我慢しないで下さい、一杯泣いていいのですわ」
暫くすると、リヴェットの中からフッとアトリアが現れました。
リヴェットを抱きしめながら羽に手を伸ばそうとするレティシアを、アトリアはじっと睨みつけました。
「あ....あら、アトリアちゃんもおかえりなさい」
「何をしているのですか?」
「い....いえ何でも....あら? リヴェット。翼に黒い羽が付いていますわ」
レティシアはリヴェットの翼に付いていた黒い羽を掴みました。
リヴェットはそれを見て言いました。
「あ....それはきっとクラウディアのだよ....」
それを聞いたレティシアは、突然絶望に暮れた表情に変わり、リヴェットから離れ、後ずさりしていきました。
「レティ、どうしたの?」
「ちょっと.....リヴェット。あなた、まさか.....いや! 私のリヴェットがー!」
レティシアが頭を抱えて絶叫していました。
リヴェットとアトリアは、レティシアを呆気にとられて見つめました。そして互いに見つめ合い、くすくすと笑いました。
ライラもリヴェット達に優しく声を掛けました。
「リヴェット様、お帰りなさい.....ご無事で本当に良かったです.....」
「その声は.....ステラさん?」
リヴェットはロクスクロス公社のスーツを身に纏った女性が、ステラだった事に驚きました。ライラは自分のエンパス・リンカーとしての姿を、リヴェットがまだ知らなかった事を思い出し、慌てて言い直しました。
「あ.....あの、リヴェット様。実はこれが私の本当の姿、ライラ・リーデルです。今までずっと隠していました.....申し訳ございません」
ライラはリヴェットに深く頭を下げました。
「そうだったんだ.....」
リヴェットは、スレンダーで整った体が露出した衣装のライラを見て、強い憧れを感じていました。
「.....あの、あの時は....ありがとうございました。」
アトリアがリヴェットの隣に並んで、ライラに深くお辞儀をしました。
「ふふ....私も皆さんと同じ、ECRを操る者同士。これからはもっと沢山、お話が出来ますね」
ライラは優しく微笑みました。
「ステラさんってば、すっかりエロかわいくなりましたわね.....」
いつの間にか正気を取り戻したレティシアが、にやにやしながらライラの耳のリンカーを弄りました。
「お嬢様!」
ライラは怒りながら、逃げ回るレティシアを必死に追いかけました。
リヴェットとアトリアは、思わず声を出して笑ってしまいました。
冒険前の賑やかな日常がすっかり戻ってきていました。
「リヴェット.....おかえりなさい」
「おじいさま!」
リヴェットは黒い石碑の前にもたれ掛っていたシュレットに駆け寄りました。
「おじいさま....ずっと待たせてしまってごめんね.....」
「いや....あれから一晩しか経っていないようだ。しかしリヴェット、君は恐らく、相当長い時間を冒険をしていたようだ。
それはきっと辛い旅だった事だろう。依然よりも、ずっと立派な目つきをしている。今度は私達に、君の冒険の話を聞かせて欲しい。
「うん....悲しい事が沢山あったけど、でも.....とても大切な物も見つけたよ.....」
リヴェットはゆっくりと瞼を閉じて、クラウディアの黒い羽を両手で優しく包み込みました。
次の日、ルシーア号はいよいよ帰路に向けて、シューガルデンを出発しました。
乗客が増えたルシーア号は、依然よりも賑やかになりました。
シューガルデンはロボットのみで社会が維持されてきたお陰で、ルシーア号の修理パーツ、R.クラークの予備ユニットは勿論、ロボット達が自主生産し続けている食べ物も手に入り、ウェレンスヴァニアを出発した時以上に、沢山の荷物を積んでいました。
ルシーア号は途中、オルカに立ち寄りました。
湖畔の美しい風景が一望できる場所に、リヴェットはトラヴィスの残骸を埋め、墓標を立てました。
墓標には、トラヴィスが大事にしていた赤いマフラーが巻かれていました。
リヴェットとアトリアは二人並んで、祈りを捧げました。
レティシアは不機嫌そうに言いました。
「リヴェットってば優し過ぎですわ。こいつは沢山の罪のない人を殺し、私達も殺そうとした悪人ですわよ」
「うん....でも、私たちの世界を救おうとして、その身を捧げて戦ってくれたの。だからもう、終わったんだよって.....」
シュレットが言いました。
「確かに.....彼が犯した罪は許されるものではない。だが、それでも彼は英雄だったのだ。私達がこうしてオールホームで生きているのも、彼のおかげでもあるのだ.....」
「ふーん....」
レティシアは不満気な表情で墓標を見つめました。
「.....お疲れ様とだけは、言っておいて差し上げますわ」
ルシーア号は黄昏に染まるオルカ湖を出発し、真っ直ぐ北の進路を取り、飛翔していきました。
「リヴェットちゃーん!」
「きゃぅっ」
ルシーア号のデッキでは、レティシアはまたいつものように、リヴェットの翼に抱き付いてきました。
「レティ.....ダメだよぉ」
「ああ....ずっと求めていた、このやわらかい感触」
羽に顔を埋めているレティシアを、傍にいたアトリアがムッとしながら、タクトを振り回してレティシアを何度も叩きました。
緑色に輝く光の粉が飛び散りました。
「痛い!痛いですわ!....んもう、乱暴な子ですわ」
アトリアはジトッとした目で、レティシアを睨んでいました。
そして今度はレティシアに代わって、リヴェットの羽に抱き付きました。
「きいいい!この子....いくら触れられるようになったからって.....生意気ですわ!」
レティシアはアトリアを引っ張って離そうとしました。
「やあ....やだ!駄目です!」
「二人とも喧嘩はやめて....」
「あら?」
レティシアは、リヴェットが読んでいた本に気が付きました。それはソーラス語で書かれた本でした。
「リヴェット、何を読んでいますの?」
「えと....次の冒険の行き先、どうしようかなって」
「リヴェットってば.....やっと帰れるというのに、もうそんな事を考えていますの?」
レティシアはため息をつき、空を見上げて言いました。
「.....これだけ大きな冒険をしてしまったのに、次の行き先なんてもう無いですわよ」
「ううん、目的地は....沢山あり過ぎて、わからないくらいだよ....」
レティシアは驚いてリヴェットの方に向き直りました。
「何ですって?.....ちょっとリヴェット。一体その本は何ですの?」
「うん....これは、クラックスのゲートアドレス表。クラウディアから貰ったの。
殆どはHとN....即ち、HOMEとNEBOを現しているけど、ほら...これを見て」
「....S...Y....これって、もしかして?」
リヴェットは後ろのページを開くと、そこにはNEBOとは違った、色とりどりの美しい星が描かれていました。
その中には、宇宙の中に雲と美しい森林が浮かぶ、とても幻想的な光景もありました。
「驚きましたわ。ソーラス人達が進出した世界は、あの星だけでは留まらなかったのですわね」
「うん。だから探すの。星を渡る旅人.....もう一人のフローネルの足取りを。そして、失われた11の”Erlija Minor Swing”を。
今はまだわからないけど、きっと道はどこかにあるよ。
それに、これでいつでも、クラウディアに会いに行ける.....」
リヴェットはとても嬉しそうに言いました。
レティシアはため息をつき、苦笑しながら言いました。
「ふう.....また、長い旅になりそうですわねえ」
「うん....だって、私達の冒険はまだ始まったばかり。ね?」
リヴェットはアトリアの方を見て微笑みました。
「はい!」
アトリアは笑顔で頷きました。
二人の手は、しっかりと繋がれていました。
ルシーア号は遥か北....ウェレンスヴァニアを目指し、飛び去っていきました。
ルシーア号のエンパサイズ・エンジンが青白い光の帯は次第に遠くなり、やがて小さな流星となって、北の夜空に浮かぶ星空の中へと消えていきました.......。
NEBO 唄おう 希望を胸に
NEBO 伝えよう 願いをこめて
さあ行こう友よ あの青い星へ
私達の故郷 NEBOの彼方
SOLROS -Eternal Memory- (完)